★ 短編・中編小説(戯曲)
夏の夜の夢・あらし(新潮文庫)
シェイクスピア(著),福田 恒存(翻訳)
出版社: 新潮社; 改版(1971/8/3)
「夏の夜の夢」「あらし」はどちらもシェイクスピアの有名な戯曲で、妖精の出てくる幻想的な作品であるところが共通しています。
感想文におすすめなのは、シェイクスピア最後の作品といわれる「あらし」です。あらしはテンペストとも訳されます。
船の難破から始まる起伏に富むストーリーで、悲劇的な事件を発端とし、奇怪で、魔術的で、面白くて、深みのある、ロマンティックな、いくら言葉を重ねても表現しきれないくらい、すばらしい戯曲です。
華岡青洲の妻(新潮文庫)
有吉 佐和子(著)
出版社: 新潮社; 改版(1970/2/3)
華岡青洲は実在した人物です。
青洲は江戸時代の外科医で、世界初の全身麻酔による手術に成功しました。その過程が丹念に描かれる小説はそれだけでも読み応えのあるものですが、小説ですから、事実通りというわけではありません。
有吉佐和子はこの小説で、医学とは別のテーマを設定しています。どのようなテーマであったのか、ぜひ読み取っていただきたいと思います。
美しき惑いの年(岩波文庫)
カロッサ(著),手塚 富雄(翻訳)
出版社: 岩波書店; 改版(1954/7/5)
独立しても読める自伝的作品四部作『幼年時代』『若き日の変転』『美しき惑いの年』『若き医者の日』のうち、『美しき惑いの年』はカロッサの18歳から21歳にかけての時期が描かれた作品です。
医学を学び、開業医となるハンス・カロッサは第一次世界大戦と第二次世界大戦を経験することになりますが、ハンス・カロッサ(相良憲一・浜中春訳)『ハンス・カロッサ全集 第4巻』(臨川書店、1997)の解説によると、カロッサが青年時代を過ごしたこのころのミュンヘンは最も平穏で幸福だったといわれる黄金時代で、「イーゼル河畔のアテネ」と呼ばれる芸術の都だったそうです。
このような芸術家たちの世界で、また医者の卵として、カロッサはさまざまな経験をし、いろいろなことを考えます。作品の豊かな世界を味わい、そしてカロッサと一緒に考えてみてください。
★ 長編
タタール人の砂漠(岩波文庫)
ブッツァーティ(著),脇 功(翻訳)
出版社: 岩波書店(2013/4/17)
この夏におすすめする、一押しの作品です。
長編小説ですが、長いとは少しも感じられないでしょう。内容はどこか不思議なところがありますが、読みやすい小説です。
作品の舞台にイメージを与えたとされるドロミテ・アルプス。
訳者解説によると、イタリアの作家ディーノ・ブッツァーティが愛したといわれる故郷ベッルーノから見えるその山並みの向こうは、もうオーストリアとの国境だそうです。19世紀前半、ベッルーノはオーストリアの支配下にあり、第一次大戦中には一時オーストリア軍に占領されたのだとか。
以下は「Pixabay」からお借りしたドロミテの写真です。
細雪(上・中・下)(新潮文庫)
谷崎 潤一郎(著)
出版社: 新潮社; 改版(1955/11/1)
谷崎潤一郎の代表的長編小説です。
谷崎は『源氏物語』を訳していますが、この古典的な物語の世界を現代に蘇らせようとした作品だといわれています。四季の美しさの中で、四人姉妹の物語が展開します。
かなりの長編ですが、この小説もさほど長いとは感じられないでしょう。戦時下の困難な状況の中で典雅なこの物語が書き続けられたというのは、驚くべきことです。
水害の中での超人的な救出の場面など、いささか作りすぎではないかと思われる箇所があったりもしますが(わたしは台風被害に遭ったことがあるので、なおさら)、そこでは野心的な作品を数々手掛けた谷崎の清新な息吹が感じられるようで、微笑したくなります。
『源氏物語』は、過去記事「高校生の読書感想文におすすめの本(長編部門・ベスト5)」で採り上げました。